アナログ音声用バランス出力IC(SSM2142,DRV134,THAT1646(は内部回路が異なるようですが),等)は特徴的な差動出力回路でHOT(プラス)側,COLD(マイナス)側どちらかがショートされると反対側がショート分の出力電圧を補うように動作します。サーボバランス出力などと呼ばれることもあるようです。バランス入力、アンバランス入力、どちらへの接続でも同じ出力レベルが得られ、この点がトランスバランス出力回路の動作と同様であり、音声特性、スペースファクタ、コスト等多くの条件がトランスと比較して有利なため現在のプロオーディオ機器ではバランス出力が必要な場合特に理由が無ければバランス出力IC(または同様の回路)が使われます。
バランス出力ICの振る舞いはどのくらいトランス出力同様なのか、特にアンバランス入力への接続時の “ショートされている側” の振る舞いについて確認してみます。
その前に、トランスバランス出力をアンバランス入力へ接続した場合は
↑図のように伝送路上の信号電流はHOTとCOLDのみに存在しこの二つの電流は対称です。この接続はバランス出入力伝送に近いノイズ性能が得られますが、そこの話題は別な機会に、あと、電流が対称であること自体に一つメリットがあります(これも別な機会に)。
トランスバランス出力–アンバランス入力接続の場合「GNDに接続されているCOLD側の電流はHOT側の電流と対称」(=電流についてはバランス接続と同じ)だということから、では、バランス出力ICの出力をアンバランス入力に接続した場合COLD側の電流はどうなっているのか。
結論から言ってしまえば、対称にならないことを確認しました。この回路は抵抗値のばらつきが動作に大きく影響する(入力が差動出力のみならず同相の出力として大きく増幅されてしまったり)ため、実際のIC内部は安定動作する現実的な抵抗値(それでも相当なマッチングです)が選択されているようですが、そうするとアンバランス入力接続時の電流の非対称性は、無視できるほどは小さくなりません。ですが、伝送路上影響が出そうな値ではありません。以下、ここまでに書いてある以上の情報はありませんのでお急ぎの方は読み飛ばしてください。
今回はICはブラックボックス扱いとして実験回路と回路シミュレーターで確認してみます。
使える手持ち部品がSSM2142だったのでそれで以下の簡単な実験回路を作成
バランス入力とアンバランス入力の中間状態である非対称な負荷をいくつか確認します。
オシロによる確認はざっと以下
カーソルでの読み取り(自動計測だとノイズ込みの値で小レベル時に大分大きく出てしまうので)なので値はアバウトです。
負荷が非対称だと電流も非対称になってくるようです。
次にシミュレーター。はTI社のものなのでDRV134になります(動作に多少の差異はあるかも)
まず実験回路同様の定数で確認。
*直流でもいいのですが結果の見た感じを実験回路のオシロに合わせたくて1kHz過渡応答にしました。
以下はR2=0Ω
↓まとめた表 (表のシミュレーター結果は上図のカーソル値と少し異なりますがVoのDCオフセット除くため Vp-p/2 を記載しています。他、小数点以下3桁揃えは見やすさのためだけで元データの有効桁数はバラバラです)。
比較して実測のアバウトさとICの違いを含めた差異はありますが電流が非対称になってくる同様の傾向が確認できます。
アンバランス入力接続時のGNDショートされているCOLD側の電流はHOT側電流より大きくなりトランスバランス出力とは違って非対称になることを確認しました。そしてこのときの非対称の比率は思ったより大きめでした。が、非対称な差分電流の絶対値は比較的小さく、伝送路的には、通常は影響無いと考えていいと思います。
バランス出力ICの振る舞いは、バランス入力への接続でない場合は電圧レベル補償以外はトランスバランス出力とは異なるものだと捉える必要がありそうです。