IDC(圧接コネクター)の疑問なんですが …電線被覆の温度の影響は

こちらの業界では昭和の時代から「ヘッダー」と呼ばれている基板-リボンケーブル(フラットケーブル)接続用のIDC(圧接コネクタ MIL-C-83503形といえばいいのかヒロセ電機製でいうならHIF3)について(というかIDC接続全般)の疑問。

IDCは電線被覆を剥かずに接続するコネクタ全般を指すそうです。電話やLANなどのモジュラープラグやカーオーディオ配線加工なんかで使うエレクトロタップと呼ばれるものなども含まれますね。

IDCは接続加工時に電線側は端子接触部にこすれている部分がそれなりに塑性変形しますが端子側の塑性変形はわずかで、接続状態の維持は主に端子が電線を挟み込むばね性によって保たれています。コネクタメーカーのカタログやらwebやらの資料によれば「初めは信頼性確保のため単線のみの対応だったが、しばらくしてより線も対応できるようになった」とあります。「ヘッダー」の場合は1.27mmピッチのリボンケーブル(フラットケーブル)いわゆるUL2651#28より線がよく使われます。より線の場合の接触状態は下の各引用画像のように電線の芯線同士が ”押し合って” 端子に接しています。逆にいうと、芯線同士が押し合わなければ端子との接触状態は安定しないということであり、芯線を円形に並べようとする”電線被覆”の応力が少なからず寄与していることになります。

↑引用画像:ヒロセ電機(株)様 HP「押さえておきたいコネクタの基本解説!」より
https://www.hirose.comjaproductprConnector_Basic_knowledge_2
↑引用画像:アールエスコンポーネンツ(株)様 HP「タイトな関係~ 用途と接続の原理 ~」より(TE Connectivity様の記事)
https://jp.rs-online.com/web/generalDisplay.html?id=ideas-and-advice/wire-to-board-connectors-guide

実際に下の画像のようにリボンケーブルの芯線1本だけを端子に挟んでみるとスカスカで保持されません。

そもそも疑問の発端は、ある特注品の製作中にリボンケーブルを「ヘッダー」直後で折り曲げたい場面があり(ストレインリリーフ取付の場合は必ず直後で180°折り曲げが必要なので折り曲げ自体は問題ないことはわかる。ちなみに今回はリリーフなし)、冬で室温が低いのでケーブルが固くなかなかいうことを聞いてくれないので思いついてその付近をドライヤーで温めるとすんなり予定の形になりましたが、しかし直後に「手応えがすんなり過ぎる」と違和感がよぎり、この加熱状態でのヘッダー直近のケーブル曲げ伸ばしは端子接続状態に影響を与えるんじゃないかと気になり始めて悩んだ末、ケーブルを切断して新しいヘッダーに付け直しました。この時、被覆は温度で柔軟性が大きく変化するが、IDCは被覆(の応力)も重要であるのなら温度変化で接触状態に(不可逆的なものも含めた)影響があるのか(あるいはないのか)と疑問がわきました。

次に、前出のドライヤーとか使用環境中の温度上昇ではケーブルは精々50~60℃程度と思いますが、直付けヘッダー(と呼んでいる圧接コネクタを直接基板にはんだ付けするタイプ ↓画像)の場合、手はんだでもはんだ付け作業中の端子と電線の接触部周辺はもっと高い温度になりこの部分の被覆も大分柔らかくなるのではと思いました。被覆の応力が低下して端子ばね性が勝り芯線どうしの位置がずれるようなことがあればずれた位置のままで冷えて固まり接触状態が変化するのではないか、と追加の疑問もわきました。

コネクタメーカーはこういった点も織り込んだ上で設計しているのだろうなとは思うのですが、カタログ、データシートでケーブルの温度変化や高温時の曲げ伸ばしなどについての記載は見たことがないので、それでも前出「手応えがすんなり過ぎる」違和感は気になります。

と疑問はあるものの、ユーザー側では調べようがないので、ここから想像される実際の対応として、「直付けヘッダーの手はんだ付けは1ピンあたりは手早く行い次のピンのはんだ付けには少し時間をおく。はんだ付け中はリボンケーブルのヘッダー付近に力がかからないように注意する」「ヘッダー挿抜時リボンケーブルがやわらかいと感じるほどの温度になっている場合(最近の機械では筐体内温度がこんな風に高いことはほとんどありませんが)は動かさずに冷えるまで待つ」「事後に挿抜の可能性があるヘッダーはストレインリリーフを積極的に使用」といったところでしょうか。