アナログオーディオラインレベルの電子バランス入力回路。代表的なものいくつかについて、入力インピーダンスを中心に再確認してみます。
回路例の定数は各回路共ゲイン1倍として記載しています。
[1] 一番見る機会の多いオペアンプの差動入力基本の回路
入力インピーダンスは
[1-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合はHOT/COLDどちらかに信号を接続します。通常はHOTに信号、COLD側はGNDに接続します(未接続にするとゲインが6dB下がってしまいます)。[1]の定数だと入力インピーダンスは20kΩ、[1a]の定数だと入力インピーダンスは10kΩ。COLD側に信号を接続する場合はHOT側はGNDに接続します。[1]の定数だと入力インピーダンスは10kΩ。[1a]の定数だと入力インピーダンスは15kΩ。
COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。
GND接続側の入力インピーダンスはここでは割愛します。 [1-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合、
[1]の定数だと入力インピーダンスは HOT側:20kΩ / COLD側:≒6.67kΩ(HOT電圧=-COLD電圧の時)。
[1a]の定数では、入力インピーダンスは HOT側:10kΩ / COLD側:10kΩ(HOT電圧=-COLD電圧の時)。 [1-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合は、[1]の定数では前出[1-2]のようにHOT/COLDの入力インピーダンスが違うのでサーボバランス出力のサーボ機能が働きHOT/COLDには電圧差があります。サーボバランス出力はHOT/COLDの各負荷が非対称な場合シンプルではない電圧配分比率になります(当ブログページ参照
「バランス出力IC(DRV134,SSM2142)-アンバランス入力へ接続時の…」
*トランス出力と違いHOT/COLDの電流は対称にはなりません)。大雑把には、HOT/COLDは30~40%程度の電圧差となります。入力インピーダンスは HOT側:20kΩ / COLD側:約6kΩ(これは接続されるサーボバランス出力によって差があります)(HOT,COLDの電流が対称ではないので HOT – COLD 入力間のインピーダンスというのは避けます)。[1a]の定数ではHOT/COLDは対称な電圧になり、入力インピーダンスは HOT – COLD 入力間で20kΩ。 [1-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合は、[1]の定数だとHOT側入力に全電圧が現れCOLD側入力は0Vになります(え、という感じですがそうなります…というものの実測してみるとそうなるのは1kHz以下程度まででそれ以上はHOT-COLD間ではつじつまが合っているのですが対GNDでは複雑な応答をします。トランスによって差があります)。入力インピーダンスは HOT – COLD 入力間で20kΩ。
[1a]の定数ではHOTとCOLDは対称な電圧になり(こちらも同様に1kHz程度以上になると対GNDでは複雑な応答をします)、入力インピーダンスは HOT – COLD 入力間で20kΩ。
一般に差動入力基本の回路として示されていて多くの製品で使われている[1]の定数ですが、接続する出力回路と伝送路を含め、さらに入力は別な機器の入力とパラ接続されたりすることがあるところまで考慮すると[1a]の定数比のほうがいいだろうと思います。
接続する出力回路について補足
*1: 真の電子バランス出力 ここでは(便宜上ということで一般的な呼び名ではありません)、HOT側出力にCOLD側用-1倍ドライバを加えたもの、または、HOT側用とCOLD側用にそれぞれ独立したドライバがあるような、ストレートな回路を呼びます。
*2: サーボバランス出力 疑似フローティングバランス出力とも呼ばれます。バランス出力用IC (SSM2142 , DRV134)などに使われる、出力電流センスによりHOT/COLDのゲインバランスを変える回路を呼びます。
[2] [1]の回路のHOT,COLD両入力にバッファーアンプを加えた回路
入力インピーダンスは
[2-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合は、HOTまたはCOLDに信号、空いている側はGNDに接続します。入力インピーダンスはRi(ここでは100kΩ)次第。COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。 [2-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合の入力インピーダンスはHOT側:100kΩ (=Ri)
COLD側:100kΩ (=Ri) [2-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で200kΩ (=2xRi) [2-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で200kΩ (=2xRi)
入力インピーダンスについてはシンプルです。
高い入力インピーダンスにできますが、入力電圧がバッファーアンプのオペアンプ内部入力段の停止領域に達すると出力反転が起こり出力波形が激しく歪みます(4558系は出力反転が起こる代表的な物です。出力反転なしタイプのオペアンプを使えば穏やかにクリップします)。出力反転が無い場合でもこの回路のままではアンバランスの+24dBu(GML製品他このような出力の機器もあります。バランス出力の機器よりむしろ高いスペックのものも多いです)が受けられないので、入力端にPAD(アッテネーター)が必要です。このためラインレベル回路で使用する場合高い入力インピーダンスが生かせませんが、入力側から見てHOT/COLDが同一の回路である点にメリットがあります。
[3] 反転2段による比較的素直な回路
UREI1176LNの電子バランス入力タイプで使われています。
入力インピーダンスは
[3-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合は、HOTまたはCOLDに信号、空いている側はGNDに接続します。入力インピーダンスは10kΩ。COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。 [3-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合の入力インピーダンスはHOT側:10kΩ
COLD側:10kΩ [3-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ [3-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ
入力インピーダンスについてはシンプルです。
高い周波数の同相ノイズキャンセル効果を得難いですが、現代的なオペアンプを使用すればオーディオ帯域においてはまあ許容できます。
[4] 非反転入力側に反転入力側同様の帰還をかける回路
入力インピーダンスは
[4-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合は、HOTまたはCOLDに信号、空いている側はGNDに接続します(未接続にするとゲインが6dB低下します)。入力インピーダンスは15kΩ(10kΩではなく)。COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。 [4-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合の入力インピーダンスはHOT側:10kΩ (HOT電圧=-COLD電圧の時)
COLD側:10kΩ(HOT電圧=-COLD電圧の時) [4-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ。 [4-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ。
フィードバックループにオペアンプが入っていて位相余裕がありません。抵抗だけで組むと発振してしまうことが多いので、この回路例だけコンデンサを記載しています( C3は実験ではあったほうが1MHz近辺で安定でした)。
入力インピーダンスについては接続信号により変化がありますがHOT/COLDで対称性があります。
非反転側フィードバック用オペアンプの出力をCOLD側出力として引き出せばバランス出力が得られます。
この中で最初に出てきた[1]以外は入力インピーダンスは一定、またはHOT/COLDで対称性のある動作です。
[1]は基本の回路といいながら、入力インピーダンスについてはちょっとクセがあるというのを再確認しました。トランスバランス出力やサーボバランス出力を繫いだ場合HOT/COLDの電圧が大きく違っていることがある(信号伝送的には大きな問題はありません。小さな問題はまあ…)点は覚えておいたほうがいいですよね。テストや測定時に突然目にするとどこかが壊れているんじゃないかと余計な時間を費やしたりしてしまうので。[1a]はこの点が改善されています。