PCスピーカーの「ピー・・」というノイズの原因(4)

前回からの続きです – (4)。

↓CMC(コモンモードチョーク)を取り付けた現在の接続図(接続図1b)

CMCの効果で「ピー」はかなり小さくなりました。このままでも使用には問題ないレベルと思います。ですが、それまで「ピー」に紛れて聞こえていなかったアンプのホワイトノイズが「ピー」が小さくなったことで実はけっこう大きかったんだなと感じ、気になってきました。

ホワイトノイズはボリュームを絞っても出ているので、ボリューム以降の部分、PCスピーカー内のアンプのゲイン(プリセット40dB)が高すぎるために大きく出ていると思われます。ボリューム部分は 50kΩBカーブのボリュームにオーディオカーブ補正のためと大きすぎるアンプゲインに対応するためのアッテネーター(約24dB)を兼ねた抵抗がついています。このアッテネーターを無くしてその分アンプゲインを下げれば現状のスピーカー音量程度のままホワイトノイズを低減できます。

画像↓ボリューム部分の加工(私物につき加工が乱暴なのはご容赦ください。・・ここは特に乱暴ですね)。

似たようなアンプICのNJM2073のデータシートを参考に外部NFBを追加してアンプゲインを下げます(私物につき加工が乱暴なのはご容赦ください)。画像↓

Rf:4.7k / Rs:820 でゲイン約16dBになり、アッテネーターをなくした分と相殺できましたが、(違う型番なので条件は異なるとはいえ)このデータシート記載での安定動作するゲイン低減の最大量を大分超えてしまっているので、動作が不安定であれば対策をする必要があります。オシロスコープをつないで動作状態を確認したところ、オシレーター1k~2MHzスイープでピークなく穏やかにゲインが下がり、出力クリップ時のリンギングもないので、(私物ということで)特に対策はしなくてOKとしました。

結果、ホワイトノイズは聞こえなくなりました。小さく残っていた「ピー」もアンプゲインを下げた分さらに小さくなりました。それでも完全沈黙とはいかずスピーカーに耳をくっつけると小さく「ピー」と聞こえますが、使用状態ではPCのファンの音も加わるのでスピーカーからの音として聞き取れるノイズはなくなりました。パッシブ部品でのローコストな対策(ICなどを使わない対策)としてはこのあたりが限度と思います。

これ以上の対策は、(通販サイトのレビューなどでもすでによく書かれている方法ですが)PCとは絶縁された別なUSB5V電源を用意するというのが最も効果が大きい正攻法ということになります。この差が現れるのは、PCのUSBはノイズが多く外部アダプターはノイズが少ないから、ということではありません。電源0Vが絶縁されているからです。↓接続図1(=対策加工前の図)で少しご説明すると、外部アダプター使用の場合は接続図1でいうところの E1 – G1 接続が存在しません(絶縁されている)。このため(ノイズも含まれているかもしれない)電源電流の経路が P2 – P3 と E3 – E2 (= 5V – 0V) の線間に逃げ場なく閉じ込められていて、 G3 – G2 (接続図1) 側には 5V – 0V 間に存在している(かもしれない)ノイズ電流が流れ込まない → PC側GNDとPCスピーカー側GNDの間にノイズ電圧が発生しない、となります。

参考用(再) 接続図1(=対策加工前の図)

単に結果と方法をご紹介するのではなく、身近な題材でノイズの原因と対策の過程をお伝えできれば面白いのではないかと記事にしてみましたが、わかりやすいものにはならなかったので反省。


PCスピーカーの「ピー・・」というノイズの原因(3)

前回からの続きです – (3)。

前回の加工を反映した接続図
接続図1a

ボリューム最小では、かなり小さくなって気にならない程度になりましたが、ボリュームを上げるに伴って「ピー」が大きくなる。これは、接続図1aでは、G4 – S4 間に 「ピー」電圧があり、それがボリュームで増減されている 。ここからたどって、G4電圧 = E4電圧 (≒G5電圧) , S4電圧 = S3電圧(とします) ですので、 E4 と S3 の間に 「ピー」電圧があるということです。S3 – S2 間には他に接続が無いのでここでは S2電圧 = S3電圧 とします(実際はG4やS5から交流的な電流が流れ込んでいる場合もありこれを考慮しなければならないこともありますが、ここでは無いものとします)。
PC内部の G2 , G1 , E1 , E2 間の抵抗や電流がどうなっているかはわかりませんが今便宜的に G2 – G1 – E1 – E2 間は非常に抵抗が小さくこれらの間に電圧差は無いものと仮定します(実際はあるかもしれません。後ほど)。
PC側のアンプA0 の出力である S2電圧 は G1電圧 を基準としています。E4 – G2 間と、加えてこれと並列に接続されている E4 – E2 間の両方に「ピー」電流が流れているので、 G1(=G2) と E4 の間には「ピー」電圧(電流による電圧降下)があります。S3(=S2) の電圧基準は G1(=G2) ですので、ボリュームを上げると出てくる「ピー」は、E4 – G2 および E4 – E2 間に流れる「ピー」電流によって作り出されていると考えられます。
DC電源0Vと音声GNDが、PC側で E2 と G2 、PCスピーカー側で E3 の1ヶ所でまとめられて(配線加工前でも E4 と G3 として)それぞれくっついている以上、「ピー」電流は G2 , E2 に対して(=G1 に対して) E4 の「ピー」電圧(電流による電圧降下)を作ってしまいます。(この、電源0Vと信号GNDの関係は、機器設計においても高性能化に際してノイズやクロストークについての重要な問題です)

電源のノイズといった場面で威力を発揮してくれそうなのがコモンモードチョーク(以下、CMCと表記)です(CMCの働きについては各メーカーサイトで詳しく説明されていますのでそちらをご参考ください)。CMCはコモンモードノイズ電流を阻止するための部品ですが、有効周波数範囲のディファレンシャルモード(ノーマルモード)電流を最大化する働きがあります。但し、CMC、特に電源用CMCは直流を含めてディファレンシャルモード電流は対称な電流を扱う(なので最大化も何も常に最大です)という前提があり、ここが定常的に非対称な電流となるのはイレギュラーな使い方で、この場合のスペックもデータシート記載がありません。今回は 0V側 でCMCと並列に接続経路が存在するので直流についてCMCの電流は非対称になります。
CMCの記載を加えた下記接続図1bから、CMCの直流抵抗は基板パターンやケーブルの直流抵抗より大きいので、0Vの直流電流については、E3 – E2 電流より E3 – G2 電流のほうが大きくなるだろうことがわかります。つまり、CMCの 5V と 0V の直流電流は大分非対称になります。
接続図1b

CMCの接続を試す前に、外部の実験用電源から5Vを供給してPCにはUSBの0Vのみと3.5mmプラグを接続してみます。この実験でUSBの5V電源のみがノイズ源なのかを確認します。もっと前にやるべき実験なのですが説明の都合でここになってしまいました。↓画像の接続でワニ口クリップから外部5Vを供給します。(CMC接続の加工途中で接続を変更して実験しているためCMCの端子をハンダターミナルとしてだけ利用しています。CMCはこの実験の動作には影響していません)

外部5Vを供給します。5Vの消費電流の直流分は 12mAでした。次にUSB,3.5mmプラグを接続します。USBの0Vまたは3.5mmプラグどちらかを繫いだ場合は静かですが、USBの0Vと3.5mmプラグ両方を繋ぐと「ピー」が出ました。USBの5Vは繋いでいないのにです。USBの0Vと3.5mmプラグのGNDの間に「ピー」電流が流れているということです。前述の PC内部のGNDと0Vに電圧差は無いと仮定・・というわけにはいきませんでした。これは、何モードのノイズというのか、PC側マザーボードの単純でない原因によって現れるものだと思います(ここ(PC側)に手をつけたくありません)。
CMCはディファレンシャルモード電流以外の電流に効果(対称でない電流を阻止する)があるのでここで確認された 0V – GND間の 「ピー」電流にも効果があるのではと思います。

今回使うCMCは50円で入手した電源用の約40mH/0.6Aとインダクタンスの大きなものです(このPCスピーカーは数年前に確か500円位で入手した物(新品です。当時は安かった)なので追加対策部品が数百円レベルになるともうコスト的なバランスが悪いのでその点を気にしながら進めています)。CMCの二次側に、気休めに0.1uFのコンデンサをつけていますが無くても効果は変わりません。

「ピー」ノイズの大幅な改善が得られました。条件が限られると思いますが、今回は非対称な直流で磁気飽和せずに効果を発揮してくれました。これなら前回記事の接続図1aとなる配線接続変更はしなくてもCMC追加だけでこの状態になったのではと思います。
動作としては、「ピー」電流(の大部分)がCMCによって強制的に対称な電流として 5V , 0V の2線間とPCスピーカー側の10uF(コンデンサー)で折り返す経路に閉じ込められた格好になり、接続図1bの G2 – E3 間(3.5mmプラグのGNDとPCスピーカーのGND間)には「ピー」電流が(ほとんど)流れないため、G2(=G1) に対して E3(=G3=G4) には「ピー」電圧が(ほとんど)発生しません。よって E4 – S4(からボリュームを経由した S5) 間、それがアンプA1を通った S6 – E4 間にも「ピー」電圧が(ほとんど)発生しません。( ここの文章のところどころに出てくる”(ほとんど)”で「ピー」が完全に沈黙したわけではないことをご想像いただけると思います)
しかし「ピー」 はかなり小さくなったのですが今度は別な気になることが出てきました・・

私物ということでまた加工が乱暴で恐縮ですが結束バンドとホットボンドでケーブルの引っ張られ対策をして熱収縮チューブで覆って完了です。

次回に続きます -(4)。

PCスピーカーの「ピー・・」というノイズの原因(2)

前回からの続きです – (2)。

↓まずはケーブルのPC側付近を一度切断してシールド/GND,0Vの接続状態を変えてみます。
PC接続プラグ付近でUSBの0Vと3.5mmプラグのシールド/GNDをくっつけてみます。(後参照用にこれを実験①とします)
接続図1でいうと Gw2 と Ew2 をくっつけた状態です。

これで試してみると、変わらず「ピー」が出ます。そしてなんと3.5mmプラグを外しても「ピー」が出続けています。前回記事で、3.5mmプラグを接続せずUSB電源接続のみでは 「ピー」が出ないというのがこの対策作業のそもそもの発端ですので、この変化は「ピー」の対策のヒントになりそうです。

↓USBの0Vとと3.5mmプラグのシールド/GND接続を元通りにして、今度はPCスピーカー側の基板の音声入力ケーブル接続を変えてみます。

信号線(接続図1の Sw )の影響を分離するためGND線(接続図1の Gw )のみを基板に当てます。
↓AA画像(左側) / BB画像(右側)

AA画像(左側)は元のコネクタ接続位置の裏側端子(接続図1の G3 )に当てた場合で、当然これまで同様「ピー」が出ます。
BB画像(右側)のところ(接続図1の E4 )に当てた場合は 「ピー」が出ません!。

ここで、当たり前なんですが、そもそもスピーカーの音はどんな時に出るのかと考えてみます。ここでは接続図1の S6 – G6 間に交流的な電流がある時 = S6 – G6 間に交流的な電圧差がある時です。アンプ A1 は何を増幅しているのかと考えると、S5 の電圧 ですが、より詳しくいうと G5 を基準電圧とした S5 との電圧差 を増幅しています。S6 – G5 間はスピーカー以外は接続されていないので G6 – G5 間を便宜的にスピーカーの一部とみなすと、G5 – S5 間に信号(交流的な電圧差)がある時、G5 – S6 間にこの信号が増幅された電圧が現れ、スピーカーから音が出るということになります。アンプの入力、出力ともG5の電圧が基準となっています。
G5 – S5 間に「ピー」という交流的な電圧差(信号)があるとき「ピー」が聞こえ、G5 – S5 間に「ピー」という交流的な電圧差(信号)が無いなら「ピー」は出ません。

プリント基板のパターンにも小さいながら電気抵抗があり、電流が流れる2点間には小さいながら電圧差(電圧降下)が発生します。その電流が交流なら交流的な電圧差(信号)となり、「ピー」電流なら「ピー」という電圧差になります。電流が流れていない2点間(途中のどの部分にも電流が流れていない2点間)には、電圧差(電圧降下)は発生しません。

上のAA、BB画像では信号線(Sw)は接続されていない( S3 , S4 には電流が存在しない)ので、S5 の電圧は(アンプの入力電流は非常に小さいので無視すれば) G4、そして G3 の電圧とも同じと考えられます。とすれば、G5 と G3 の間に「ピー」の交流的な電圧差があるのがAA画像(左側)で、無いのがBB画像(右側)ということになります。違いは何なのでしょうか?

BB画像(右側)は Gw を G3 には接続せず E4 に接続した状態です(↓接続図1-2)。G3 – G2 間の接続が無いので( S5 のアンプ入力電流は非常に小さいので無視すれば) E4 – S5 間の経路上には電流が無く、その1点である G3 は E4 と同じ電圧、であれば S5 と E4 も同じ電圧です。
次に、G5 – E4 の間に電流がなければ(無視できるほど小さければ) G5 と E4 の電圧は同じになります。G5 と E4 の電圧が同じ状態で、 S5 と E4 の電圧が同じなら S5 と G5 の電圧は同じであり、つまりスピーカーの音(「ピー」)は出ません。
(この説明では意図的に除外しましたが、G5 – E4 間にはアンプICの5V電源 P5 からの電源電流が流れています。電源に交流的な「ピー」電流があれば G5 と E4 の間に「ピー」という交流的な電圧差が出て、すると G5 と S5 の間にも「ピー」の電圧差が現れてスピーカーの音になります。BB画像(右側)の状態では「ピー」が出ていないので P5 – G5 間(アンプICの5V-0V間) には交流的な「ピー」電流が十分少ないのだろうと思います(アンプICのPSR(電源ノイズ除去機能)によっても抑圧されます))


↓BB画像の接続状態(接続図1-2)

同様に
↓AA画像の接続状態(接続図1-3)

接続図1-2(=BB)では、Ew(0V線) と Gw(音声のGND線) の接続経路として、基板パターンの E4 – G3 がなくなっていることがわかります。前述のとおり、G5 と G3 の間に「ピー」の交流的な電圧差があるのがAA画像(左側)(接続図1-3)で(これも前述ですが)プリント基板のパターンにも小さいながら電気抵抗があり、電流が流れる2点間には小さいながら電圧差(電圧降下)が発生するので、G5 – G3 間の「ピー」の交流的な電圧差は E4 – G3 間に「ピー」電流が存在するために発生していることがわかります。実験①(当ページ内前出)で3.5mmプラグを外しても「ピー」が出ていることからわかるのは、USBプラグをつなぐと Ew には常に「ピー」電流があり、さらに3.5mmプラグをつなぐと(または実験①の接続であっても) Gw にはこの Ew の「ピー」電流が分岐して、詳しくは、 E3 – E2 と G3 – G2 間の各抵抗値の比に応じた「ピー」電流が流れている(だろう)ということです。
接続図1では簡便のため音声は片チャンネルのみ記載していますが、実際はL,Rありますので、実際の Gw , Ew の各線は、Gw: AWG#26程度x2 , Ew: AWG#28程度 と、Gw のほうが Ew より倍以上太く低い抵抗値であり「ピー」電流の多くが Gwに流れていると思われます。
これを増幅するアンプIC A1 TDA2822のゲインはプリセット40dBで、これはゲイン低めのマイクアンプという感じで G5 に対する G3 の「ピー」がマイクレベル位に小さくても十分に増幅できるゲインです。

ところで、E4 – G3 は、基板パターン上でどの程度のものなのでしょうか
↓画像

仕事でこの手の基板の設計をしている僕が見ても、え、これだけ?これだけであんなノイズになるの?という印象です。
そしてこの基板のパターンは、闇雲に回路図の端子を繫いだものではなく、GNDのパターンにアナログ回路設計的な配慮のある(所謂リターンパスを考慮した)設計です。基板パターンに電源整流回路があるのでAC入力の基板を流用しているようで、基板設計時にはこういう使われ方は想定していなかったのではと思います。ともかく、特定の(しかも現在ではありふれた)条件では、この程度のパターンでも不快なレベルのノイズに結びつくという実例として認識を新たにしました。

この接続の解決として、配線を基板に直にはんだ付けせず、元の接続にも戻せる(戻しませんが)ように考えて
↓画像のように加工しました。(緑色の線がGND線接続経路変更の追加ジャンパーです)

さて、これでボリュームを上げてみると・・
減ってはいますが「ピー」がいまだしっかりいます。
ボリューム最小では、かなり小さくなって気にならない程度にはなりましたがまだいます。

次回に続きます -(3)。

PCスピーカーの「ピー・・」というノイズの原因(1)

数年前から個人用パソコンで使っているPCスピーカーは、スピーカーからの直出しコードで音声を3.5mmプラグ、電源をUSBでそれぞれを接続する安価なタイプで、これが買ったときからずっと「・ピー・・ピ・ピー」と不連続なノイズを出しています。USBをPCではなく外部のUSB電源アダプターにつなぐと静かになるのは確認済みでしたが、このスピーカーの使用頻度が低いのでノイズはまあいいかとUSBはPCに繫いで音を出すときだけ電源スイッチを入れてそのまま使っていました。
(↓動画は、少しわかりにくいですがマウスの動きと連動してノイズが変化するのが確認できると思います(音声は聞き取りやすいように後加工で大きくしています。))

先日PC内部のほこりを掃除するために一旦ケーブルを全部外して掃除し、ケーブルを再接続する際、スピーカー接続時にすでにPCの電源を入れていて、ふと、電源用のUSBだけをつないだ場合は「ピー」が出ない(出ているが非常に小さい)ことに気づきました。

ということは、PC側USB電源に多少のノイズが存在したとして、電源ノイズに関してはこのPCスピーカー側電源入力回路との組み合わせで使用上問題ない程度に低減できているということになります。

ここで3.5mmプラグ”も”つなぐと「ピー」が出ます。
PCスピーカーについているボリュームを絞り切っても出ています。ボリュームを上げると「ピー」が気持ち大きくなります。

ボリュームを絞り切っても出ている、ということから、信号線以外の線(言ってしまえばシールド/GND線)にノイズが存在しているだろうということがわかります。PCに直接ヘッドフォンを接続して注意して聞いてみても知覚できるレベルのノイズはありませんので、音声信号と一緒くたになっている信号としてのノイズ(これの場合は外部的な努力では減らしようがありません)は無いあるいは非常に小さいです。

ということで、ノイズがケーブルの接続にまつわるものであればこちらの分野ですので、「ピー」除去の対策をしてみました。
長くなるので記事を数回に分けます。

PCスピーカーを分解して、試しに電源に220uHと100uF(低ESR品)のフィルタをつけてみました。すでにUSB電源接続のみでは「ピー」は出ない(正しくは小さくですが出ている)ことを確認しているので効果は大きくないはずです。結果は若干小さくなった程度でした。
(■注意! USB規格では5V-0V間に取り付けられる容量は見かけ上10uF以下と規定されています。上記は実験として一時的に大きな容量をつなぎましたが、実際このUSBを何度か抜き差ししてみると、となりに刺さっていた外付けUSBハブが気絶しました。USBの5V供給側回路がダメージを受ける場合もありますのでこの実験のような接続は行わないでください。)
画像↓(私物につき加工が乱暴なのはご容赦ください)

アンプICはTDA2822です。データシートを確認すると、ゲインはICのプリセットで40dB、PSRR(電源ノイズ除去性能)は30dB(@100Hz)程度だそうです。

アース線をつけてみました。こういったノイズに対して効果は限定的であることは経験的にも回路技術的にも存じているつもりですが、当ブログ “スタジオマイクケーブル音声回線のシールド接続について(片端を浮かす是非)” でアンバランス接続のノイズ対策についてGND接続強化という部分がありせっかくですので試してみました(正直アンバラノイズに十分な効果があるほどのGND接続強化は物理的な制約と効果に見合うと思えないコストが必要と想像されるので僕は今のところ懐疑的です)。結果は接続する場所で若干差があり↓画像の接続箇所では「ピー」がわずかに減りましたが、筐体のネジなど他のところでは「ピー」がむしろ増えました。

と、ここまでは接続状態を考えずにざっと手を付けられることを闇雲にやってみたのですが、ここからはPCスピーカーの内部アンプ基板の接続を含めた全体の接続状態を考慮しながら作業してみます。


↓接続状態を図にしてみました。(事後的なので図にできています。実際は原因確認作業がある程度進まないと意味のある図にできません)

次回に続きます – (2)。

電子バランス入力回路の種類

アナログオーディオラインレベルの電子バランス入力回路。代表的なものいくつかについて、入力インピーダンスを中心に再確認してみます。

回路例の定数は各回路共ゲイン1倍として記載しています。

[1] 一番見る機会の多いオペアンプの差動入力基本の回路

入力インピーダンスは

[1-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合はHOT/COLDどちらかに信号を接続します。通常はHOTに信号、COLD側はGNDに接続します(未接続にするとゲインが6dB下がってしまいます)。[1]の定数だと入力インピーダンスは20kΩ、[1a]の定数だと入力インピーダンスは10kΩ。
COLD側に信号を接続する場合はHOT側はGNDに接続します。[1]の定数だと入力インピーダンスは10kΩ。[1a]の定数だと入力インピーダンスは15kΩ。
COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。
GND接続側の入力インピーダンスはここでは割愛します。

[1-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合、
[1]の定数だと入力インピーダンスは HOT側:20kΩ / COLD側:≒6.67kΩ(HOT電圧=-COLD電圧の時)。
[1a]の定数では、入力インピーダンスは HOT側:10kΩ / COLD側:10kΩ(HOT電圧=-COLD電圧の時)。

[1-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合は、[1]の定数では前出[1-2]のようにHOT/COLDの入力インピーダンスが違うのでサーボバランス出力のサーボ機能が働きHOT/COLDには電圧差があります。サーボバランス出力はHOT/COLDの各負荷が非対称な場合シンプルではない電圧配分比率になります(当ブログページ参照「バランス出力IC(DRV134,SSM2142)-アンバランス入力へ接続時の…」*トランス出力と違いHOT/COLDの電流は対称にはなりません)。大雑把には、HOT/COLDは30~40%程度の電圧差となります。入力インピーダンスは HOT側:20kΩ / COLD側:約6kΩ(これは接続されるサーボバランス出力によって差があります)(HOT,COLDの電流が対称ではないので HOT – COLD 入力間のインピーダンスというのは避けます)。
[1a]の定数ではHOT/COLDは対称な電圧になり、入力インピーダンスは HOT – COLD 入力間で20kΩ。

[1-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合は、[1]の定数だとHOT側入力に全電圧が現れCOLD側入力は0Vになります(え、という感じですがそうなります…というものの実測してみるとそうなるのは1kHz以下程度まででそれ以上はHOT-COLD間ではつじつまが合っているのですが対GNDでは複雑な応答をします。トランスによって差があります)。入力インピーダンスは HOT – COLD 入力間で20kΩ。
[1a]の定数ではHOTとCOLDは対称な電圧になり(こちらも同様に1kHz程度以上になると対GNDでは複雑な応答をします)、入力インピーダンスは HOT – COLD 入力間で20kΩ。

一般に差動入力基本の回路として示されていて多くの製品で使われている[1]の定数ですが、接続する出力回路と伝送路を含め、さらに入力は別な機器の入力とパラ接続されたりすることがあるところまで考慮すると[1a]の定数比のほうがいいだろうと思います。

接続する出力回路について補足
*1: 真の電子バランス出力 ここでは(便宜上ということで一般的な呼び名ではありません)、HOT側出力にCOLD側用-1倍ドライバを加えたもの、または、HOT側用とCOLD側用にそれぞれ独立したドライバがあるような、ストレートな回路を呼びます。
*2: サーボバランス出力 疑似フローティングバランス出力とも呼ばれます。バランス出力用IC (SSM2142 , DRV134)などに使われる、出力電流センスによりHOT/COLDのゲインバランスを変える回路を呼びます。

[2] [1]の回路のHOT,COLD両入力にバッファーアンプを加えた回路

入力インピーダンスは

[2-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合は、HOTまたはCOLDに信号、空いている側はGNDに接続します。入力インピーダンスはRi(ここでは100kΩ)次第。COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。

[2-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT側:100kΩ (=Ri)
COLD側:100kΩ (=Ri)

[2-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で200kΩ (=2xRi)

[2-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で200kΩ (=2xRi)

入力インピーダンスについてはシンプルです。
高い入力インピーダンスにできますが、入力電圧がバッファーアンプのオペアンプ内部入力段の停止領域に達すると出力反転が起こり出力波形が激しく歪みます(4558系は出力反転が起こる代表的な物です。出力反転なしタイプのオペアンプを使えば穏やかにクリップします)。出力反転が無い場合でもこの回路のままではアンバランスの+24dBu(GML製品他このような出力の機器もあります。バランス出力の機器よりむしろ高いスペックのものも多いです)が受けられないので、入力端にPAD(アッテネーター)が必要です。このためラインレベル回路で使用する場合高い入力インピーダンスが生かせませんが、入力側から見てHOT/COLDが同一の回路である点にメリットがあります。

[3] 反転2段による比較的素直な回路

UREI1176LNの電子バランス入力タイプで使われています。

入力インピーダンスは

[3-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合は、HOTまたはCOLDに信号、空いている側はGNDに接続します。入力インピーダンスは10kΩ。COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。

[3-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT側:10kΩ
COLD側:10kΩ

[3-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ

[3-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ

入力インピーダンスについてはシンプルです。
高い周波数の同相ノイズキャンセル効果を得難いですが、現代的なオペアンプを使用すればオーディオ帯域においてはまあ許容できます。

[4] 非反転入力側に反転入力側同様の帰還をかける回路

入力インピーダンスは

[4-1]*アンバランス出力を繫ぐ場合は、HOTまたはCOLDに信号、空いている側はGNDに接続します(未接続にするとゲインが6dB低下します)。入力インピーダンスは15kΩ(10kΩではなく)。COLD(またはHOT)-GND接続は必ずアンバランス出力端で行い、以降バランスで配線します。こうするとバランス接続同様の同相ノイズキャンセル性能が得られます。

[4-2]*真の電子バランス出力(*1)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT側:10kΩ (HOT電圧=-COLD電圧の時)
COLD側:10kΩ(HOT電圧=-COLD電圧の時)

[4-3]*サーボバランス出力(*2)を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ。

[4-4]*トランスバランス出力を繫ぐ場合の入力インピーダンスは
HOT – COLD 入力間で20kΩ。

フィードバックループにオペアンプが入っていて位相余裕がありません。抵抗だけで組むと発振してしまうことが多いので、この回路例だけコンデンサを記載しています( C3は実験ではあったほうが1MHz近辺で安定でした)。
入力インピーダンスについては接続信号により変化がありますがHOT/COLDで対称性があります。
非反転側フィードバック用オペアンプの出力をCOLD側出力として引き出せばバランス出力が得られます。

この中で最初に出てきた[1]以外は入力インピーダンスは一定、またはHOT/COLDで対称性のある動作です。
[1]は基本の回路といいながら、入力インピーダンスについてはちょっとクセがあるというのを再確認しました。トランスバランス出力やサーボバランス出力を繫いだ場合HOT/COLDの電圧が大きく違っていることがある(信号伝送的には大きな問題はありません。小さな問題はまあ…)点は覚えておいたほうがいいですよね。テストや測定時に突然目にするとどこかが壊れているんじゃないかと余計な時間を費やしたりしてしまうので。[1a]はこの点が改善されています。

2022年7月8日 | カテゴリー : 未分類 | タグ : | 投稿者 : gecko1

バランス出力IC(DRV134,SSM2142)-アンバランス入力へ接続時の…

アナログ音声用バランス出力IC(SSM2142,DRV134,THAT1646(は内部回路が異なるようですが),等)は特徴的な差動出力回路でHOT(プラス)側,COLD(マイナス)側どちらかがショートされると反対側がショート分の出力電圧を補うように動作します。サーボバランス出力などと呼ばれることもあるようです。バランス入力、アンバランス入力、どちらへの接続でも同じ出力レベルが得られ、この点がトランスバランス出力回路の動作と同様であり、音声特性、スペースファクタ、コスト等多くの条件がトランスと比較して有利なため現在のプロオーディオ機器ではバランス出力が必要な場合特に理由が無ければバランス出力IC(または同様の回路)が使われます。

バランス出力ICの振る舞いはどのくらいトランス出力同様なのか、特にアンバランス入力への接続時の “ショートされている側” の振る舞いについて確認してみます。

その前に、トランスバランス出力をアンバランス入力へ接続した場合は

↑図のように伝送路上の信号電流はHOTとCOLDのみに存在しこの二つの電流は対称です。この接続はバランス出入力伝送に近いノイズ性能が得られますが、そこの話題は別な機会に、あと、電流が対称であること自体に一つメリットがあります(これも別な機会に)。
トランスバランス出力–アンバランス入力接続の場合「GNDに接続されているCOLD側の電流はHOT側の電流と対称」(=電流についてはバランス接続と同じ)だということから、では、バランス出力ICの出力をアンバランス入力に接続した場合COLD側の電流はどうなっているのか。

結論から言ってしまえば、対称にならないことを確認しました。この回路は抵抗値のばらつきが動作に大きく影響する(入力が差動出力のみならず同相の出力として大きく増幅されてしまったり)ため、実際のIC内部は安定動作する現実的な抵抗値(それでも相当なマッチングです)が選択されているようですが、そうするとアンバランス入力接続時の電流の非対称性は、無視できるほどは小さくなりません。ですが、伝送路上影響が出そうな値ではありません。以下、ここまでに書いてある以上の情報はありませんのでお急ぎの方は読み飛ばしてください。

今回はICはブラックボックス扱いとして実験回路と回路シミュレーターで確認してみます。

使える手持ち部品がSSM2142だったのでそれで以下の簡単な実験回路を作成

バランス入力とアンバランス入力の中間状態である非対称な負荷をいくつか確認します。
オシロによる確認はざっと以下

カーソルでの読み取り(自動計測だとノイズ込みの値で小レベル時に大分大きく出てしまうので)なので値はアバウトです。
負荷が非対称だと電流も非対称になってくるようです。

次にシミュレーター。はTI社のものなのでDRV134になります(動作に多少の差異はあるかも)

まず実験回路同様の定数で確認。
*直流でもいいのですが結果の見た感じを実験回路のオシロに合わせたくて1kHz過渡応答にしました。

以下はR2=0Ω

↓まとめた表 (表のシミュレーター結果は上図のカーソル値と少し異なりますがVoのDCオフセット除くため Vp-p/2 を記載しています。他、小数点以下3桁揃えは見やすさのためだけで元データの有効桁数はバラバラです)。

比較して実測のアバウトさとICの違いを含めた差異はありますが電流が非対称になってくる同様の傾向が確認できます。

アンバランス入力接続時のGNDショートされているCOLD側の電流はHOT側電流より大きくなりトランスバランス出力とは違って非対称になることを確認しました。そしてこのときの非対称の比率は思ったより大きめでした。が、非対称な差分電流の絶対値は比較的小さく、伝送路的には、通常は影響無いと考えていいと思います。
バランス出力ICの振る舞いは、バランス入力への接続でない場合は電圧レベル補償以外はトランスバランス出力とは異なるものだと捉える必要がありそうです。

2022年3月19日 | カテゴリー : 未分類 | タグ : | 投稿者 : gecko1